生産の危機 新職人を感じる縫製業
聞くところによれば、右脳型人間が集積しているのは建築業で、それも大工と呼ばれる職種に顕著だという。家づくりの技術はもちろん、彼らが右脳型と呼ばれる所以は、自在な応用技術と創意工夫に優れているからだ、といわれる。どれだけ条件が変わっても、創意工夫によって、新たなアイデアを生み出し、独自の家をつくりあげる。
それに近い“右脳”を感じたのは、かつて東北の縫製工場を訪れたときだった。縫製工場としては大きなクラスで、主にメンズのシャツを生産、そこで「工賃だけでは縫製技術は語れない」ことを実感した。
一般的にドレスシャツの縫製工場は、いたるところに自動機器が並び、まるでロボット工場にいるような近代性を感じる。ポケットやカフスのパーツづくりは、すべて機械がやってしまう。人間はセットするだけで、あとは専用機がこなす。
ところが訪れたシャツの工場は、最終工程にハンガー式のラインがあるだけで、その多くは“有人工程”である。勤続20年のキャリアをもつ技術者が、まるで精密機械のような細かい作業を行っている。そして、驚いたのが工程に流れる製品の多様性である。
生地が薄いドレスシャツ工程の横では、肉厚のダンガリーシャツがつくられ、一度に何種類ものシャツが流れている。この多様な製品をこなすには、どんな状況にも対応できるベテラン・オペレーターが欠かせない。いってみれば職人が集まった工場。そんな感じがする。
周知のようにシャツは精密性が要求されるアイテムである。ミリ単位の誤差が欠陥にあらわれる。それだけに縫製ロボットが欠かせない。しかし、精密性をクリアすればいいのか、といえば否である。多くのファッションがそうであるように、精密なシャツといえどもテイストが求められる。言い方を換えれば「シャツの味」ということになる。
この味を出すには、デザインやパターンメークはもちろんだが、縫製仕様によっても味は千変万化する。その“味出し”ができるかどうか……。
「当社では、まず欧米に負けない技術がある、と自負しています。問題は工賃で、しかるべき料金をいただければ何でもつくれる。ところが、現状は1枚1200円の攻防で、工賃は同じで『いいものをつくれ』ですから……」
シャツ工場の社長は、なかばあきれ顔で、こう話していた。


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