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2008/01/28

オトコも“装楽”を体感する

 以前、朝日新聞の投稿欄に、定年退職した男性からの一文が掲載されていた。会社を辞めて悠々自適の生活を送っている男性が、服装がもたらす心理変化を実感した、という話である。
 スーツにネクタイ姿でサラリーマンを過ごしてきた男性が定年後、カジュアルな服装になって驚いたのは、それまで気付かなかった色の世界だった。地味な色柄のビジネスウエアにはない、カラフルなカジュアルウエアを着ているうちに、色の楽しさを実感したのだという。
 これと似た話は、ほかにもある。ある時、首都圏の市役所から講演依頼を受け、男性ファッションについての話をした。受講者の平均年齢は60歳を越えており、その人たちにメンズ・ファッションを語る、という冷や汗が出るような講演会である。
 講演が終盤にさしかかり「皆さんの中で、自分で服を買っている人は?」と聞いてみた。すると、40人あまりいた受講者のほとんどが「妻が買う」という状況。自身での購入はゼロだった。
 そこで受講者の人たちに、次のような提案をした。
 「靴下でも、ベルトでもいいから、自分で選んで買ってみてください。そうすると、靴下一つでも、皆さんの想像以上に種類が沢山あり、選ぶのに迷うはずです。そして、自分で買ったものが、とても気になることに気付くはずです。それがファッションの第一歩なんです」
 それから数日経ったある日、受講者の一人から手紙が届いた。言われた通り、自分でシャツを買ってみると、確かに商品が多すぎて迷ったし、いざ着る段になると、心配になった。派手過ぎるのではないか、と気になったが、家族の評判は上々。手紙は「こんなに楽しいこととは思わなかった」と結んであった。
 どちらも服には無頓着だった男性が、ファッションに目覚めた心境を語る、興味深い事例である。ファッション教育とは、業界人もさることながら、こうした男性への啓蒙を含まれている。これも市場掘り起こしのヒントになる。

2008/01/16

オジンの奮戦記 スカートを作る!③

 最後の追込みが2週間続いた。いよいよ、縫製作業の始まりだ。その前に服地にアイロンを当てる。バキューム装置の付いたスチームアイロン。家にある家庭用とは違う。これを使って服地と裏地をプレスする。次に服地を型紙に沿って裁断。服地が薄いためハサミが進まない。丁寧にやればやるほど、断面がぎざぎざになる。
 これが終わると、裁断した部分にロックミシンを掛ける。工場見学では何度も見ているが、やるのは初めて。まず、先生が手本を示す。服地の端を数ミリ切断しながらロックを掛ける。「切り過ぎないようにね」の指示にペダルを踏み込む。ゆっくり服地が前進するのだが、肝心のロック部分が空縫い。服地の切りすぎを恐れたためか、数箇所に空縫いが生じ、縫い目を解いてやり直しの連続。試行錯誤を繰り返しながら、脇線とヘムのロックが完了した。
 次に待ち構えていたのが本縫いである。本縫いをするにあたって服地に躾を施す。躾糸で服地の中心線を縫う。それが終わると「切り躾」といって、二枚に重ねた服地を縫い、重なり部分の躾をにぎりはさみで切り離す。服地を切らずに躾糸だけを切るのは根気がいる。
 その服地を持って重厚な工業用ミシンの前に座る。自動車教習所で初めてハンドルを握ったときの心境を思い出す。膝の位置にあるレバーを足で押すと、ミシンのおさえが自動的に上がる。手動の家庭用ミシンとは違うな。ちょっとした感動を抱きながら、ゆっくりペダルを踏み込む。カシン、カシン……乾いた音を響かせながら服地が動き始める。スカートの両脇が縫合されると、かなり完成品に近づいた。


 4日目。始める前に先生の「今日中に完成させようね」に「えっ?はい…」。前回の作業で完成品に近くなったとはいえ、ベルトもなければファスナーもない。ウエストのギャザーだって、これからである。果たして完成するのか……。
 まず、裏地作りからスタート。型紙に合わせて裁断し、ロックを掛ける。前回に比べれば、ロックも本縫いもスピードが上がった。するとすかさず「慣れてきたときにミスを冒しやすいから注意してね」の警告。作業態度で気持ちを見抜かれてしまった。気持ちを入れ替えて慎重にミシンを回す。
 出来上がった裏地を、こんどは表地と合わせる。ボディに二つをピン止めして、床上がり寸法を調節する。スカートの裾をまくり、表地と裏地の丈を合わせる。堂々とスカートをまくりあげるのは、これが初めてである。
 それが終わると、脇にファスナーを取り付け、さらにウエストをつくる。ギャザーのバランスは先生に一任。先生の仕事を見学する。そして、ウエストベルトを本体に縫い合わせると、ほとんど完成だ。「あとは纏りだけ……」と聞いて安心していたら、これが大変。おばあさんの裁縫作業が待っていた。ウエストの裏側とスカートのヘムを1周。これを手で縫っていく。針仕事をこんなに長い時間やるのは、小学校での家庭科実習以来のことである。


 かくして「オジンのスカート挑戦」は、延べ4日間、時間にして約20時間を費やし、何とか完成にこぎつけた。もちろん、その多くは先生の手助けによるもので、こちらは役立たずの助手をしていたに過ぎないが、それでも一つのアイテムを最初から最後まで立ち会えた経験は貴重である。なぜなら、20時間も続けて見学することは不可能に近いからだ。
 この研修によって得たものは技術ではない。もし、技術を習得するためだったら、パターンだけでも1、2年。縫製にしても同じである。では何を習得したのかといえば、スカート1着を作り上げる、すべての工程を体感したこと。人づての話や見学では得られない、服づくりの技術や作り手の意識を、直近で感じることができた収穫は大きい。
 もし、これをファッション産業に従事するすべての人(営業や販売)が体感したならば、もつと健康な産業になるだろうし、一般の人たちにとっても“賢い生活者”への一助になるはずである。ともすれば、服づくりがコストの秤に掛けられがちな昨今ではあるが、今回の研修によって「つくり手」と「着る人」のコミュニケーションがさらに密になる必要を感じた。つくり手の心情、心意気が着る人に伝わったとき、それがグレードのいかんにかかわらず、新しい価値を生むのではないか。そんな思いが増幅する。

2008/01/13

オジンの奮戦記 スカートを作る!②

 2週間ぶりにアトリエに行く。前回は初めてのドレーピングだったが、今日は何を学ぶのか……。
 すると、先生曰く。「パターンそのものの勉強も大事だけど、今回は“自分でスカートを作る”がテーマだから、大体の流れを把握するためにCADを使ってパターンをつくってみましょう」
 これまで取材でCADの実演は見たことがあるが、自分で操作するのは初めてである。そんな初心者の不安を知ってか知らずか、先生は大きな白板のカバーを取り払う。聞けば、これは白板ではなく、デジタイザーという入力装置の一つなのだそうである。
 画面上の位置を指示するマウス型の装置と、位置を検出する板状の装置を組み合わせたもので、ここに前回作成したシーチングのパターンを貼り付ける。貼るというよりは、静電気によってシーチングが吸い付く、というのが正しい表現。

 コンピューターを立ち上げ、デジタイザーとリンクする。といっても、基本操作は先生に委ねる。先生の“模範演技”をなぞる形で、デジタイザーに吸着したパターンにマウスを合わせる。直線部分は、「Z」ボタンをクリックしてマウスをウエストから裾をマーク、曲線はマウスを基点に合わせ「1」ボタンをクリックしてから終点をマークすると、たちどころに直線や曲線が画面にコピーされる。
 「これば便利だ」と感心する一方、これを自在に操るには「ワープロどころではない……」と思い、溜息が出た。それからの作業は、先生の横での“見学者”。ドレーピングが必ずしも正確ではなかったため、何度も修正の手が加えられる。ウエストを細くするだけなのに、先生は電卓を叩きながら修正数値を割り出す。前身と後ろ身の寸法バランスに始まり、ダーツ間のバランスも計算する。その間、CADを見つめる生徒は操作についていけず、頭の中は真っ白。インプットは停止したままだ。

 デジタイザーを使ってパターンを入力し、グレーディングを終えると、カッタープロッターでパターンを出力する。このあたりは何度も見学していた光景だから、別に驚きはない。問題は、この型紙を服地におくマーキングからである。今回使用する服地は、清涼感があふれる草花をプリントした絡みメッシュである。見た目には涼しげで、模様もさっぱりしていて気持ちがいい。しかし、イメージ先行のこの服地が素人の手に負えないことが、その後の作業で明らかになった。
 まず、マーキングが大変。服地が薄いため、地の目が見えにくい。そのうえ、あちこちに服地のたるみができてしまい、これを地の目にあわせて逃がしていく。手の甲で地の目方向に撫で付けたり、軽くパンパンと叩いたりしながら、服地の余りを逃がしていく。これを何度も繰り返す。
 すると、「これは、ちょっと大変」と先生が唸った。スカートの裾部分の模様とパターンが合わない。柄が円形にデザインされているため、その円と裾が合わなくなった。個人的には「無理にあわせなくてもいい……」と思っていたが、それは素人の考え。プロは何としても柄合わせにこだわる。

 そこから先は、何をどう処理しようとしているのか、説明は受けるのだが分からない。
 理解した内容を整理すると、服地の模様とパターンを合わせようとすると、地の目を無視しなければならない。ただ、これは後の工程で修正できる、というものだった。そして、粗裁ちした服地に躾を入れる。今回初めての縫い仕事である。その躾をした服地を、こんどはボディに合わせる。最初のドレーピングと同じだが、前後の身頃をピンでとめると、完成品に近いシルエットが生まれた。

2008/01/09

オジンの奮戦記 スカートをつくる!

 メンズファッションとレディスファッションは、年を追うごとに近接している。ジェンダーレス時代を迎えて、両者のデザインや技法が“キャッチボール”を繰り返し、新たなファッションを形成している。そこで、メンズファッションしか知らない筆者がレディスウエアの製作に挑戦した。以下は、その奮戦記である。
       ◇      ◇                         
自分で、ちゃんとした服を作ってみたい……。
新聞記者から数えてファッション業界に30年。
いまでは商品講座の教鞭をとるまでになったが、いちども服を作ったことがない。
縫製業界の業界革新を訴えながら、もの作りは見るだけで、
ミシン操作も知らない。
そんな矛盾が、潜在的な服づくりを増幅させていた。
すると、「それなら福ちゃん、やってみようよ」。
若いデザイナーを育てているアトリエ・サボの渡辺慶子さんが背中を押した。
      ◇      ◇ 
そして、いよいよ初日。
いきなりスカートのドレーピングの実習である。
あらかじめ用意されたシーチングに線を引く。
「地の目を揃えて……」
その後、なんどもアドバイスされた言葉である。
最初は、その意味がわからない。
描きいれた線を、こんどはカットする。
どう見てもスカートとは思えない、台形のパターンが出来上がった。
「これがスカートになるのか?」
      ◇      ◇ 
次に、そのパターンをもって、ボディーの前に座る。
ボディーにはセンターと、水平に黒いテープが張ってある。
この光景はなんども見てきたが、意味が分かったのは初めてだった。
センターのラインは、身体の中心線。
水平なものはバストとヒップのライン。
「身体で水平なのはバストとヒップなの」
先ほどカットしたシーチングの前身頃をボディーに合わせる。
合印を合わせてピンを縦横(蝶々打ち)に打つ。これで生地の動きが止まる。
ただ、意外とボディーは硬く、ピンが刺さりにくい。
こんどはシーチングに描きこんだラインをボディーに合わせる。
先生の手本通りに、何本もピンを打ち込んでいく。
ピンの頭が小さく、打つたびにピンが指に食い込む。痛い。

何とか前身ごろがボディーにセットされた。
が、平面なシーチングとボディーの間は隙間だらけ。
「では、次にいきます」
先生はウエストの縫い代上部に切り込みを入れ、ウエストラインに沿ってピンを打つ。
それを真似て、不慣れな手つきでピン打ち開始。
先生はウエストの三分の一あたりで手を止め、ボディーの下腹部を手の甲で押し上げた。
「ここは地の目に沿って、ゆっくり押し上げるの」
しかし、素人には地の目が見えない。
目を凝らして、生地の目を探す。そこからゆっくりと生地の余りを寄せあげる。
これがダーツである。
ヒップラインから10㌢あたりに蝶々ピンを打つ。
これがダーツ止まりになる。
そこから生地の余りを内側に寄せ、ピンを打つ。
生地の重なりとボディーを止めるのは難儀である。
とても先生のようにはいかない。
そして、とうとうやってしまった。
シーチングに血のシミが……。
「最初はみんながやること」
そう言い、何事もなかったように先生はピンを打つ。
悪戦苦闘の末、2本目のダーツも終わり、なんとなくスカートになってきた。
      ◇      ◇ 
前身が終わると後ろ身の作業だが、ここまでくると、だいぶ慣れてきた。
たった一枚の布が、ピンを打つだけでスカートになる。
前後の作業が終わると、黒ペンでポイントをつけていく。
5㍉ぐらいの間隔で、ウエストライン、ダーツの重なりなどをマークする。
これがパターンの元になる。
      ◇      ◇ 
初めてのスカート作りが完了。
と、思ったら「では、次にフレアをやりましょう」
手順はタイトと同じだが、ピン打ちが進むにつれて、疑問が頭をもたげる。
フレアスカートだから、当然、脇線はタイトより分量が多くなる。
その分量が、ウエストとヒップの脇のポイントを下げてしまうのだ。
「えっ……」
説明を受けても、疑問は解けない。「もっと幾何を勉強しておけばよかった」
それでも指示通りにピンを打っていくと、なんとフレアスカートになったではないか。
かくして、4時間にのぼる実習が終了。
いままで体験したことのない集中。
まだ、スカート作りにとっては序の口だが、充実感は完成に近い。

2008/01/06

古着でも競争力のあるファッション

 2008年が始まった。昨年まで「蘇れ!メンズファッション」を連載し、メンズファッションが抱える問題点や対応策について自分なりの考え方を記してきたが、年頭にあたってファッション全体の課題について述べてみたい。
 新年の新聞やテレビで目立ったのが環境に関する特集である。今年は、洞爺湖サミットが開かれることもあってか、地球温暖化についてさまざまな切り口で警鐘を鳴らしていた。個人的には21世紀から「アパレルリサイクル」への取り組みに参画し、現在もファッションビジネス学会でアパレルリサイクル研究部会に加わり、地道な活動を行なっている。
 そこで簡単に日本のアパレルリサイクルの状況を説明すると、1年間に家庭から排出されるアパレルのゴミ(衣料廃棄物)は約100万㌧にのぼる。そのうち何らかの方法でリサイクルされる量は、たったの10%。残りの90万㌧が焼却されたり、埋め立てられたりしている。この90%を、どうしたら減らせるか…。これが研究部会でのテーマである。
 その方法としては「3R」といって、リデュース、リユース、リサイクルの三つがあるが、欧米先進国でもっとも比重が高いのがリユース、いわゆる古着として再利用する方法である。日本でも古着を扱う店が増えており、ジーンズのように古着が新品を上回る価値をもつような例もある。
 そうした中、興味をもたれるのが古着の商品力である。例えば、玉石混交となったリサイクルショップにいくと、そこには様々な商品が置かれている。有名ブランドもあれば、聞いたことがないようなブランドもあり、ここでも有名ブランドの値段は高いが、それでも売れ足が速い。また、無名でも高級な素材を使っていたり、つくりが丁寧だったりする商品も売れ筋となる。
 こうした状況をみていると、古着市場でも競争優位に立つ商品には共通点がある。そのひとつがブランド力であり、ふたつ目がデザインや品質に代表される商品がもつ価値である。どれだけ有名ブランドでも、古すぎるデザインはデッドストックになってしまう。ここで大事になるのは商品がもつ魅力である。
 古着市場でも優位に立てる商品。このことを視野に入れたマーケティングやマーチャンダイジングも、エコ・ファッションにとって重要になるテーマと思うのだが…。

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